※漫画『とつくにの少女』のまとめ・考察記事です。
※私の個人的な考察なのでご了承ください。
『とつくにの少女』とは?という方は以下の記事へどうぞ。
内つ国と外つ国、内の者と外の者
この世界は白の神”父”と黒の神”母”によって形作られました。
父が光を作れば母が光を奪い闇を作る。
そうやって父が作り母がそれを奪いながら世界が作られ、最後に『命』が作られます。
父はその後みんなに喜びを与えていたが、母はそれを取り上げて悪さばかりしていました。
母に怒った父は母に罰を与えます。
そして父と母の熾烈な争いが起こります。
その争いで父は母のほとんどを取り上げ、また母は父の身体を奪いました。
ほとんどを奪われた母は怒り狂い自分の罰を呪いに変えてみんなにうつしてしまいます。
それに困った父は母を外に追い出し、呪いに触れないように高い高い壁で隔てました。
こうして、壁の内側”内つ国”と壁の外側”外つ国”ができました。
そして、父は奪った母を使って命(内の者)を作りました。
母も奪った父の身体を使って命(外の者)を作りました。
外の者とは父の身体であり『肉体』
内の者とは母の身体であり『魂』
お互いが憎むべき相手から作られていたのです。
黒の神”母”
黒の神である母が悪さばかりしていたというのは、シーヴァが持つ本の内容からでしか分かりません。
9巻で明らかになる真実は大きく3つ。
- 大粛清のこと
- 世界のはじまりのこと
- 内の者と外の者が憎むべき相手を元に作られていたこと(内の者は母の身体から、外の者は父の身体から作られていた)
母は世界を作る時、父の作ったものを奪って違うものを作りました。
父の身体で新しい命を作りはしましたが、母は”奪う”ことが基本的な役目だったのではないかと思いました。
なので父がみんなに与えた喜びも取り上げていた。そして喜びを取り上げて何かを生み出していたのかもしれない、とも考えました。
しかし9巻で神父は「呪いが国を隔てたことは周知の事でしょう」と言っているだけで呪いについては触れていません。
内つ国と外つ国ができた事の発端は母が悪さばかりしていたこと以外にはそれらしき内容がないので、母が悪さばかりしていたのは本当なのかもしれません。
内の者と外の者
外の者とは父の身体であり『肉体』
内の者とは母の身体であり『魂』
外の者には魂=心臓がありません。
しかし、内の者には身体はあります。
私にはどうして内の者に身体があるのかと不思議に思いました。
母は父の身体だけで外の者を作ったので外の者に心臓がないのは納得いきますし、”外の者とは父の身体であり『肉体』”というセリフも腑に落ちました。
内の者について、”内の者とは母の身体であり『魂』”なのだとしたら内の者に身体があるのはどうして?ともやもや…。
私はもやもやしながら2つの答えを思いつきました。
- 父は母の”ほとんど”を奪ったので、母の魂だけでなく身体も奪っていた。
- 肉体≠身体
1は父が奪ったのは母の魂だけでなく身体を少しでも奪っていたのなら、内の者に身体があってもおかしくないのではないか、ということ。
2は”父の身体であり『肉体』”ということは身体と肉体は別のものを意味しているのではないか、ということ。
身体と肉体が別の意味なのだとしたら、『魂』だけしかない内の者にも動く手足=身体があってもおかしくない。
考えれば考えるほどよくわからなくなります。
あまり深く考える必要がないのかもしれない…。
外の者は自分たちのことを”黒の子”と呼び、呪われた内の者を”よそ者”と呼んでいます。
一方で、内の者は外の者とは呪われた内の者と考えています。
内の者は事実をほとんど知らないようです。
内の者は呪われると死ねなくなると思っていますが、実際は呪われた内の者も外の者も最終的には木になってしまいます。
外の者は母から身体・音・使命(内の者から魂を取り返すという使命)を貰い産まれますが、同時に母のもっている呪いも貰ってしまいます。
外の者は徐々に呪いに蝕まれていき、一部の破片を残して木になってしまいます。
同じように呪われた内の者も徐々に呪いに蝕まれていき、木になってしまいます。
木になってしまうという点は同じですが、両者で違うところもあります。
- 外の者には魂を奪う力がある
- 木になってしまう時期が違う
外の者は魂を奪うという使命を授かります。なので、魂を奪う力があるのです。
魂に触れ続ければ外の者の身体に魂を入れることができるはずなのですが、一度もできたことがありません。
外の者が色々試すのですが、呪いが魂を蝕んでダメにしてしまう。
呪いは魂を一番に喰らいます。なので内の者は呪われてから一月も持たずに木になってしまいます。
一方で外の者の生きていられる期間はばらばらです。百年生きる者もいれば一年よりも短い者もいます。
外の者も呪いの所為で死んでしまうのです。
シーヴァとせんせ
せんせは内つ国のアルベルトという名の医者でした。
そして、シーヴァはアルベルトから魂を奪った外の者が生まれ変わった姿だったのです。
6年前、内つ国の中心地で突然外の者が現れました。
数百名の犠牲を出しても原因が分からず、街ごと囲いを建て封鎖してしまった”大粛清”と呼ばれている事件。
その中心地にアルベルトという医者がいました。
街が焼かれる中、友人の兵士と妻と子と共に森へ逃げますが追ってきた兵達によって殺されてしまいます。
処刑され、外つ国に捨てられたアルベルト。
そこに外の者が現れます。
外の者はアルベルトの魂を奪い、自分の身体の一部をアルベルトへ移しました。
外の者の身体の一部を貰ったアルベルトは呪われた内の者ではなく、外の者となりました。
そしてアルベルトの魂を奪った外の者は身体の一部をアルベルトに移したため魂が身体から溢れてしまい、疑似的な内の者として生まれ変わりました。
赤ん坊の形として生まれ変わった外の者は、外つ国の森でおばに拾われシーヴァと名付けられます。
シーヴァが呪われなかった理由
内の者は白の神が守っているからシーヴァは呪われないと考えていました。
しかし本当はシーヴァが元は外の者で呪われた身体を持っていたから。
外の者が内の者の魂に触れると魂が呪いで蝕まれてしまうが、身体に入れてしまえばすでに身体が呪われているので魂が呪われることはない、ということらしい。
第50話では外の者がシーヴァの魂を持つ器はすでに呪われていて、器の中の魂は呪いに脅かされないと言っています。
第43話では王様がいくら器が呪われていようが中の魂は汚れないとも言っています。
奪うことさえできれば呪われない魂が手に入るようですね。
ですがシーヴァは結果的に呪われてしまします。
シーヴァである外の者が自分とせんせを”不完全な器”と言っているので器が完全であれば魂が呪われることはなかったのでしょう。
せんせに外の者の身体の一部をあげたことで身体が不完全となってしまったから魂が呪われてしまった、ということでしょうね。
でももし完全な器であったら、そもそも内の者(シーヴァ)にはなれなかったですが…。
せんせに魂が残っていた
シーヴァが呪いに蝕まれる時、せんせは自身の魂をシーヴァに与えたことでシーヴァの呪いを先延ばしにすることができました。
せんせは魂を持っていたのです。
せんせが内の者から魂を奪う描写はないので、外の者がアルベルトの魂を奪う時に全てを奪っていなかったということになります。
魂をすべて奪わなかったのはどうしてなのでしょうか。
シーヴァである外の者がアルベルトから魂を奪う瞬間、”心”が宿ってしまった。
アルベルトが最後の力で外の者に助けをもとめました、その瞬間、外の者は自分の身体を渡すという奇妙な行動を取りました。
本人もアルベルトに身体を渡した理由を”分からない”と答えています。
外の者には心がありません。『魂』を持つ者にしかない心を外の者が手にしました。
魂を奪うことだけが外の者の存在理由です。
心をもっても仕方がないから今まで心が宿らなかっただけで、外の者も心を宿すことはできるのかもしれない。
アルベルトを愛おしいと思った外の者ですが、愛おしいから魂を残すというのは理由になるのでしょうか。
魂があってもなくてもせんせは外の者になってしまいます。
偶々なのか、意図的なのか、良くわかりませんね。
呪われたシーヴァを助ける為に必要だったという物語の都合上なのでしょうか。
シーヴァの魂と器
シーヴァの中には外の者と内の者の意志が二つありました。
器と魂が別物で、シーヴァになってからも外の者はずっと見ていました。
シーヴァとは『魂』のことで器である自分のことではない、なら、器の私は誰なのかと悩んでいました。
疑似的な内の者となったときに一人の人として生まれ変わっていれば良かったのですが、別の人物が生まれてしまいました。
世界のはじまりの時に父と母が作った完全な『人』にはなれなかったのです。
外の者は私は誰?と悩んでいる時点でちゃんとした心を持ってしまっています。
約7年もシーヴァの中で見ているだけだったのはどんな気持ちでしょうね…。
私は誰なのという問いにシーヴァが”あなたはあなたよ”と答えました。
最後は救われた感じで良かったですね。
その他
漫画を読んでいて不思議に思ったところがいくつかありました。
シーヴァのおば
おばは呪われていると疑いのかけられたシーヴァを兵士に殺されない為に外つ国に捨てました。
そして、シーヴァの疑いが晴れたということで兵とおばがシーヴァを連れ戻します。
シーヴァを連れ戻しに来た時、おばはせんせに対して「この子に近づかないで!」と叫びます。
おばは兵士からせんせがシーヴァを攫おうとしていると聞いていました。
おばはシーヴァをとても大事に思っています。外の者であるせんせがシーヴァの近くにいるのは恐怖だとも思います。
ですが、外つ国に捨てておいて外の者以外の誰がシーヴァを拾ってくれると思っていたの?
シーヴァを捨てる時に、おばは”どうか、心優しい人”と助けをもとめる手紙を添えています。
外つ国に捨てた以上、内の者がいるはずもないのに。
シーヴァを大事に思っているからこその言動と行動なのですが、なんだかなぁという感じです。
謎の男
シーヴァが牢にいる時に出会った謎の男。
私はこの男性を王様だと思っているのですが、王様はどうしてシーヴァに会いに来たのでしょうか。
- 儀式でシーヴァを殺めることを正当化したい
- シーヴァに逃げ出してほしい
王様は自らの手で人を殺めることができない(いつも兵に任せてばかり)優しい人であり臆病者。
そんな彼の最初で最後であろう人殺し。
彼はシーヴァに内つ国がいかに呪いに怯えているか、大粛清での悲劇について話しました。
シーヴァに自分が殺されるのは名誉なのだと分からせたかったのか。
一方でシーヴァが食事も取るようになり元気になった時に「どうやら、まだ諦めるのは早いようだ」と言っています。
もしかしたら、シーヴァに逃げ出してほしかったのではないかとも思いました。
逃げ出してくれれば儀式は行えず、王様も人殺しをしないで済みますからね。
シーヴァに内つ国の為に殺されるか、生きたいと逃げ出すのかの判断をしてほしかったのでしょうか。
その後の内つ国
最終話で外の者たちが内つ国を見て、「よそ者どもが騒がしい」「でも様子が違う」と会話しています。
玉座には王冠しかありません。王様は亡くなったのか、王ではなくなったのか。
きっと、亡くなってしまったのでしょうね…。
そして、外の者がやってくる気配はなさそうだと言っているので内つ国はシーヴァを捕えようしていない。
外の者たちの会話で確実なことは内つ国はシーヴァを捕えようとしていないことぐらいで他は分かりません。
「囲いのあちこちに集まっている」「なんだか賑やかだ」というのは、いい意味で賑やかなのか、そうではないのか。
王様は儀式の際に旧聖堂に禁書があると参列者に伝えています。
さすがに誰か一人ぐらいは禁書が気になって旧聖堂へ行くと思うので、内つ国は事実が明らかになって大混乱していそうです。
賑やかというのは、大混乱の意味なのかなと思いました。
白の神である父の願い(自分の身体を取り戻す)はまだ叶っていないですし、黒の神の母の願い(自分の魂を取り戻す)も叶っていない。
でも内の者は外の者に会わなければいいので、父の願いなど知ったことではないですよね。
外の者は使命があり魂を奪わないといけないから内つ国へ来る可能性は消えません。
外の者が来ない様に囲いを作るしかなさそうです。
月日の流れ
最終話の時点で、新しい家の階段下の床のへこみを付けた(第30話)のはひと月前のこと。
そして、旧南村のある家の前にシーヴァがスプーンを並べた出来事(第1話)が半年前。
また第25話、兵から逃げる為に家を出た時点でシーヴァがせんせの家に来てからひと月も経っていません。
第1話の時点では、シーヴァがせんせの家に来てから2週間です。
まとめると以下のようになります。
1日目 シーヴァとせんせが出会う
↓
14日目 第1話 旧南村でシーヴァが家の前にスプーンを並べる(=出来事A)
↓
30日目 第25話 兵から逃げる為に引っ越す。(=出来事B)
↓
164日目 第30話 シーヴァが新しい家の階段下の床をへこます(=出来事C)
↓
194日目 最終話 出来事Aから半年後、出来事Cからひと月後
たった6話で4か月以上も経っていたことに驚きです。
新しい家を探す旅の期間と、新しい家に来てから出来事Cまでの期間が分かりそうな描写がないのですがいつの間にそんなに月日が経っていたのだと不思議に思ってしまいました。
最終話を読んで、「え?半年も経っていたの?」と驚きました。
どうしてそこまで月日を経たせる必要があったのでしょうか。
まとめ
深く読むと難しくなっていきますが、シーヴァとせんせのお話なので深く考えなくてもいいかもしれません。
二人が残りの時間を幸せに過ごしてくれれば、それでよしです。