※ネタバレあります。ご注意ください。
作品について
タイトル | ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE- |
作者 | CLAMP |
連載期間 | 2003年~2009年 |
ジャンル | ファンタジー |
あらすじ
玖楼国の遺跡発掘調査をしている少年小狼。
彼が自宅へ帰宅するとこの国の姫様であり幼馴染のサクラが一人で尋ねてきた。
小狼は亡くなった父の夢でもある遺跡の発掘の為なかなかサクラに会うことができず、この日は久しぶりに二人で過ごすことができた。
夕刻まで二人で過ごしこそこそとサクラが城へ戻ると王である兄に見つかってしまった。
兄から遺跡調査は続くから小狼はまだまだ忙しいと意地悪く言われ、頭にきたサクラは言い返しながら自室へ行ってしまう。
その夜、サクラが外を眺めていると遺跡の方から鈴のような音が聞こえ不思議な光景が視えた。
小狼が必死になっている光景を視て、サクラは不安になってしまう。
翌日、小狼が遺跡調査をしていると兄と共にサクラが現場にやって来た。
遺跡は地下にも続いていることが分かったが、地下へ続く扉を開けることができなかった。
不思議な模様が描かれた扉を見たサクラは突然に虚ろな顔で昨日視たと呟いた。
するとサクラの言葉に反応したかのように扉が開きサクラが中へ引き寄せられていく。
小狼が慌ててサクラの後を追うと、扉と同じ模様のある壁画の前にサクラが浮かんでいた。
そしてサクラの背後に羽根のようなものが現れ、サクラがどんどん壁の中へ引き込まれていく。
小狼が必死に壁をよじ登りサクラを壁から引き離すことができたが、羽根が飛び散っていってしまう。
小狼が体が冷たくなっていくサクラを抱えて地上へ出ると、発掘調査員や見たこともない風貌の人達が血を流して倒れていた。
状況に困惑していると負傷した王と神官が小狼の元へやって来る。
神官が小狼の記憶を読み取り、飛び散った羽根はサクラの記憶でありその羽根はもうこの世界にはないと言うのだ。
小狼が必死に手立てはないのかと神官に尋ねると、神官は別の世界の”次元の魔女”と呼ばれる人の元へ行き全てを話せと二人を送り出す。
小狼が目を開けると次元の魔女の店にいた。
次元の魔女に経緯を説明し助けを求めていると、別次元から二人の男が現れた。
日本国から来た黒鋼。
セレス国から来たファイ・D・フローライト。
黒鋼は”日本国へ今すぐ帰せ”と、ファイは”セレス国にだけは帰りたくない”と次元の魔女に願う。
小狼、黒鋼、ファイの願いは”異世界へ行くこと”という同じ願いだった。
異世界へ行くための対価を1人ずつでは払うことができず、次元の魔女は3人一緒になら叶えられると提案する。
それぞれが対価を払い次元の魔女からモコナ=モドキという生き物を貸し出され、異世界へ旅立っていった。
主な登場人物
〇小狼
玖楼国の遺跡の発掘をしている少年
幼い頃に父と遺跡の発掘の為に玖楼国へやって来た
真っすぐで誠実な少年
〇桜
玖楼国の姫君
世界を変える力を持つ
明るく優しい女の子
〇黒鋼
日本国最強の忍者
戦闘と酒が好き
気性は荒いが忠義に厚い
〇ファイ・D・フローライト
セレス国の魔術師
料理が上手
いつも柔らかい表情を絶やさない
〇モコナ=モドキ
次元の魔女が小狼達に渡した異世界を渡る為の生き物
明るく元気でいつも場を和ませてくれる
〇次元の魔女
”対価を払えばどんな願いも叶える店”の店主
小狼達に異世界を渡る為にモコナ=モドキを貸した
〇飛王・リード
サクラの羽根を飛び散らせた張本人
小狼達の旅をいつも監視している
〇クロウ・リード
この世で一番強い魔術師
次元の魔女と共にモコナ=モドキを造った
感想
4人と1モコナが異世界を旅していく物語です。
羽根を集める為の旅であるのかと思いきや、後半から話がややこしくなっていきます。
色んな世界を旅して人に触れながら、全員が成長しお互いを大切に想うように。
4人が集まったのは偶然ではなく、”必然”でした。
全員がそれぞれの願いの為に自分の意志で色んなことを決断します。
願いを叶える為の代償を背負う覚悟。
人の思いは未来を変える力になる。
色んなことを考えさせられる作品です。
CLAMP作品で有名な『カードキャプターさくら』
ツバサの小狼とサクラはカードキャプターさくらの小狼と桜と同じ顔で名前も同じです。
ツバサの特徴と言えば、異世界を旅している中で他のCLAMP作品の人物が沢山登場することですね。
何人かは意味深なセリフを言っていますがほとんどの人物は見た目と名前が同じだけで本人ということではありません。
漫画連載時は他のCLAMP作品をほとんど知らないまま読んでいたので、ツバサだけを読んでも全く問題ないです。
物語前半
小狼の異世界を渡る術(モコナ=モドキを貸してもらう)の対価はサクラとの関係性でした。
サクラに記憶が戻っても小狼との思い出を思い出すことはないんです。
それでも小狼にとって大切な人に変わりはありません。
大切なサクラの為に羽根を集めることにいつも必死で真剣な小狼。
そんな小狼にファイがもっと気楽に行こうよと笑いかけます。
そこから次第に小狼も笑うようになりました。
旅の始め、ファイは命に関わらないことなら手伝うと言っていましたが、黒鋼は小狼を手伝う気はないとはっきり言います。
でも、1つ目の世界からなんだかんだ3人とモコナで街を散策したりして楽しんでいます。
黒鋼の願いは元いた世界に帰ること、ファイの願いは元いた世界だけには帰りたくないこと。
この二人は行く先々ですることがない。
そして問題なのはモコナがいないと異世界に移動できないし翻訳機にもなっていて、モコナからある距離以上離れると相手の言葉が分からなくなってしまうんです。
小狼を手伝えば早く羽根を取り戻すことができて次の世界に行けるので黒鋼も手伝った方が得なのでした。
なので序盤から黒鋼とファイも小狼とサクラに力を貸しています。
ファイとモコナが黒鋼をからかい、その状況を小狼とサクラが冷や冷やしながら見ていたり。
黒鋼が小狼に剣術を教えたり。
ファイがみんなの食事を作ったり。
大変な状況もありますが笑ったり冗談言ったり、楽しい旅をしていきます。
唯一の女の子のサクラの笑顔が可愛く、一生懸命さにとにかく応援したくなります。
異世界を渡ることで歴史をも変えてしまう
現在から過去へと移動したことで未来を変えてしまった世界がありました。
小狼達のやっていることは許されるのか。
歴史に介入してしまったことに小狼は悩みます。
そんな小狼にファイがフォローしました。
願いの為に、どこまで周りに迷惑がかかってしまうのか。
小狼達のやっていることは誰かにとっては良い事でも、他方では悪い事かもしれない。
でも、小狼はやると決めたことはやるという固い意志があります。
サクラの羽根を取り戻すために歩みを止めることはありません。
物語後半
14巻から急激に物語が進んでいきます。
小狼は造られたものであり、本物の『小狼』はサクラの羽根を異世界に飛ばした黒幕に囚われていました。
そしてサクラ、小狼、黒鋼、ファイは黒幕である飛王の夢の為に旅に出るように仕組まれていた。
今まで旅をしていた小狼は封印が切れて黒幕の操るままに動くようになってしまい、代わりに本物の『小狼』がサクラ、黒鋼、ファイとモコナと旅をすることになります。
楽しかった旅が一気に暗い旅に変わってしまいます。
今までの旅は何だったのかと思いたくなるほど全員が距離を置き始めてしまいとても暗い雰囲気です。
そして羽根が集まってきたサクラは魔力が戻っていき、夢で先の未来を視ることができるようになりました。
ファイが飛王に掛けられた”自分よりも強い魔術師を殺す”という呪いで『小狼』が殺される未来を視たサクラは刺される相手が自分になるように未来を変えます。
サクラはファイに刺され一人で違う世界に行ってしまい、『小狼』、黒鋼、ファイとモコナで旅を続けます。
飛王の何十年も前から準備をしていたという周到さ。彼の叶えたい夢への執念は敵ながら感心してしまいます。
サクラは小狼を大切にしていただけに見た目も考え方も何もかも同じである『小狼』に向き合うことができません。
そしてサクラ自身も造られたものであり、『小狼』が大切にしているサクラが別にいるという事実も知ったことでさらに『小狼』と距離を置いてしまいました。
でも、元になった『小狼』とサクラがいれば造られた自分と小狼は終わらないと未来を変えるために誰にも言わずに一人で動いた。
色んな人が未来を変える為に動いていました。
飛王の夢を知る次元の魔女や黒鋼の国の姫である知世姫など、力のあるものは出来る限りの策を講じてきた。
サクラも黙って行動したらみんなに怒られると分かっていても、悲劇を避けるために誰にも言わずに行動したのです。
黙っていられた側からしたらショックでしょうし、相談はしてほしいもの。
でも未来を変えることはとても難しくて、誰かの言動一つでまた別の未来ができてしまう。
サクラ自身もとても辛い決断をしていたんだと思います。
そして小狼も飛王の命令のまま動いていましたが、彼にもいつしか心が芽生えていました。
造られていたものだろうと小狼は小狼で『小狼』とは別の存在。サクラも同じです。
サクラだけでなく、『小狼』も黒鋼もファイもモコナも小狼を助けたいと思っていました。
全員が共に生きる未来を選ぼうとします。
黒鋼のお父さん的な存在感
黒鋼は旅の真の目的や小狼やサクラのことを何も知りませんでした。
新事実が分かる度、『小狼』とファイは知っていますという感じで黒鋼とモコナだけが驚いていることが多かった。
でも、黒鋼は仲間の心情の機敏にいつも気が付きます。
サクラが対価を払う為に一人で危険な場所へ向かう時、彼は帰ってくるまで待っているとサクラに告げます。
小狼がいなくなった後の旅で、サクラやファイが黙って何かやろうとしていることを察しながらも黙っていました。
黒鋼の旅の目的は日本国へ帰ることだけ。
それがいつしか小狼達を想うようになって、時には前に出たり、自己犠牲ばかりするみんなを叱ったり。
黒鋼がいなかったら旅はどうなっていたことやら。
ぶっきらぼうですが本当に優しい人です。
ファイの成長
この物語で、ファイの気持ちは大きく変わりました。
黒鋼に胡散臭いと言われ続けても、本当の素顔を見せることはなかった。
生まれた瞬間から不幸を呼ぶと言われ続けていたファイは生まれた国で起こる不幸を全て負わされていました。
自分が関わったことで不幸を招くと、旅でも笑顔を浮かべながら一線を越えない様にしていました。
それでも飛王から聞かされていた小狼とサクラが少しでも笑顔で過ごせたらと願わずにはいられなかった。
自分の呪いで大切なサクラを刺してしまい、暴走してしまうファイ。
自分の責任だとサクラを助けるために自分だけで行動しようとしましたが、それをみんなが許すはずもなく黒鋼に殴られてしまいます。
旅の中で自己犠牲がどれだけの人を悲しませていたのか、どれだけ自分がみんなから大切に想われていたのかを知ります。
旅の中でファイが一番成長したなぁと思いますね。
小狼とサクラの結ばれた思い
飛王によって造られた小狼とサクラ。
二人は『小狼』の父と母だった。
消え去る直前、次元の魔女とクロウ・リードによって過去に戻り生まれ変わっていたのです。
小狼は飛王に操られていたとはいえ、沢山の人を傷つけてきた。
それでも好きなサクラと共に生きたいと願いました。
サクラも小狼の罪を一緒に背負ってでも小狼の側にいたいと願った。
二人は今まで沢山辛い思いをしてきて、やっと幸せな時間を過ごすことができました。
幸せになってはいけないものはいません。
でも殺された人からしたら、幸せになんてなってほしくないでしょうけど…。
罪を背負いながら共に生きようとした二人はとても自分勝手かもしれないですが、心が強いですね。
飛王の願いと『小狼』の願い
大切な人が亡くなった人なら誰もが一度は願う”死んだ人を生き返らせたい”という願い。
飛王の願いも失った命をもう一度生き返えらせることでした。
その為に本物のサクラに死の刻印を刻み、サクラを助けたいと願う『小狼』に時間を巻き戻すという禁忌を犯させた。
飛王は世界征服などを考えていたわけではなく、誰もが一度は思う純粋な願いを本気で叶えようとしていただけ。
そして飛王によって確実に死ぬはずだったサクラを助けたいと願った『小狼』も時間を巻き戻したことで沢山の人達の人生を狂わせた。
飛王が悪役ですが、願いの内容を考えれば誰もが同じ状況になってもおかしくないんです。
『小狼』も飛王と同じ願いの為に時間を巻き戻したわけですからね。
人は願うだけで叶えようとは思いませんが、飛王は力があったからそれを成し遂げようとしました。
でも、叶えられないまま彼は消えてしまった。
彼がいつか生まれ変わって大切な人の側にいられるといいよなぁと願ってしまいます。
クロウ・リードというこの世で一番強い魔術師を超えるという野望のようなセリフも言っていますが、本当に心から大切にしていた人がいたのだと思っておきます。
どんな願いにも多かれ少なかれ代償があります。
小さな願いなら小さな代償、大きな願いなら大きな代償。
後はその代償を背負う覚悟があるかどうか。
飛王も『小狼』も覚悟があった。
覚悟が決まっている人の行動は怖いですよね。見ているこちらが心配してしまうほどです。
でも『小狼』にはサクラだけでなく、黒鋼やファイもモコナもいます。
心配してくれる人がいると分かったうえでみんなの協力の元、願いを叶えました。
仲間がいるだけでさらに強くなれます。
飛王が負けてしまったのは、それも理由の一つかもしれない。
選び続ける旅
クロウ・リードが死ぬ間際の次元の魔女に対して”目を開けてほしい”と願い、飛王・リードがその願いを叶えようとしたことから全てが始まりました。
飛王がサクラを死の淵に追いやり、『小狼』に時間を巻き戻させ小狼を造り、黒鋼の国を滅ぼし、幽閉されていたファイを連れ出した。
4人が旅に出ることは仕組まれていたのです。
でも仕組まれていたとしても旅の中でどうするかを選んだのは自分達の意志。
仕組まれた旅で出会った小狼達がそれぞれを大切に想うようになって、造られた小狼やサクラも含めた仲間全員が生きる世界を望みました。
始まりがなんであれ、その中で芽生えた気持ちは飛王のものではなく小狼達自身のものです。
得たものもあれば失ったものもありますが選んだ結果。
様々なものを受け止めて背負いながら、これからも小狼達は生きていくんだと思います。
小狼達が犯してきた罪は消えませんが、彼らが少しでも幸せな時間を過ごせるようにと願ってしまいますね。
何の願いもない人なんて一人もいなくて、願いを叶えようと日々何かを選んでいます。
人を殺めないと叶えられないほどの大きな願いを持つことは一生ないと信じたいですが、いつか願いを叶える為に大きな決断をしないといけない時がくるかもしれない。
その時に何を選択したとしても小狼達のように覚悟だけは持っておきたいものです。
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