感想『flat』青桐ナツ 全8巻

ヒューマンドラマ

※ネタバレあります。ご注意ください。

作品について

タイトルflat
作者青桐ナツ
巻数全8巻
連載期間2007年~2014年
掲載誌月刊コミック アヴァルス
ジャンル日常漫画

あらすじ

家庭科の授業を楽しみにしていた平介は、家庭科が現代国語に変更になったという理由だけで帰宅する。

家に帰ると男の子がいた。

母に聞けばと男の子はいとこの秋君で、保育所の迎えと晩御飯の面倒みることになったという。

大変ですねと他人事のように言う平介に母はあんたもいるからと言われてしまう。

まさか自分が面倒みるのかと驚いていると、翌日にさっそく秋と二人きりになってしまうことに。

きちんと片付けもして何もしゃべらず一人でお絵描きをする全く手のかからない秋を見て、平介は少しなら一人にしても問題ないだろうと外出する。

本屋でお菓子の本を見つけて読んでいると、鈴木とばったり会った。

子守しているという平介に対し、一人で置いてきたのかと驚く鈴木。

さっさと帰れと促され慌てて帰ると秋はお風呂掃除をしていた。

タイミング悪く母も帰宅し、母は秋に風呂掃除をやらせて挙句の果てに秋を置いて外出していたことに激怒する。

秋のしっかり具合に世話なんて何をしたらいいのか分からない平介。

月曜日、授業で作ったカップケーキを秋に渡すととても喜んでくれた。

恥ずかしがりながらお礼を言う秋を少しかわいく思えた平介だった。

数日後、平介が帰宅すると秋が父と電話していた。

母と父がいなくてさみしくないのかと尋ねると、こまるからと答えた秋。

わがまま言えばいいのにという平介の手にはお菓子作りの材料があり、手伝うかと聞けば秋はとても嬉しそうな顔をした。

翌日、さっそく作り始めようとすると平介の携帯が鳴る。

友人の誘いに乗った平介は、お菓子作りはまた今度と出かけることにした。

玄関前でいってらっしゃいという秋はとても悲しそうな顔をしていた。

はじめて悲しそうな顔を見た平介。

わがままを言わないだけで、我慢していることがないわけではない。

今回は自分が悪いと平介は友人の誘いを断り、家に戻ることに。

キッチンに行くと、調理器具を片付けようとしている秋がいた。

高い棚に戻そうとしてくれている秋が椅子から落ちそうになり、平介は慌てて駆け寄る。

秋は平介にお菓子作りを楽しみにしていたと図星を指され素直に頷くことができない。

頷かれても困らない、一緒に作ろうと言う平介に秋は心を開き懐くようになる。

自由奔放な男子高校生平介と、何事も耐える幼児秋との心温まる日々が始まる。

登場人物

・平介
 自由を愛し菓子作りが好きな無神経男子高校生

・秋
 平介のいとこ。幼児。
 我慢強く、何事にも耐える男の子

・鈴木
 平介の友人
 中学からの友人で、乱暴で横暴。

・佐藤
 平介の友人
 中学時代は狂犬と呼ばれていた。

・長谷
 平介の後輩
 自分の世界全開の女子高校生

・海藤
 平介の後輩
 超生真面目男子高校生。

感想

自由を愛する平介を中心とした日常漫画。

彼の周りには色んな人がいます。

色んな事が起きますが、一つ一つはしょうもないただの日々の出来事。

でもこれが良いんですよね。

そして、秋が可愛いこと可愛いこと

振り回される平介を不憫に思いながらも、ついつい笑ってしまいます。

今まで悩んだことのない事に苦労する日々

悪いこともしないし良いこともしない、自分の気分の赴くままに日々を過ごしている平介。

そこにやってきた幼児。

幼児は本当に素直なんですよね。

言葉の裏を読むことはできないので言葉通りに受け取ります。

他人を気遣うことをしない平介は日々秋に無神経な言葉ばかり言ってしまう。

我儘を言わず人を気遣う秋、直接言葉で言うことはないのですが背中で語る男なのです。

誰が見ても何を考えているのか分かる秋の背中。

自分のせいでと責めたり悲しいという雰囲気を出す秋に対し、どう対応したらいいのか分からない平介。

言ってしまったら最後、もう手遅れ。

平介も言ってはいけなかったと後になって悩みます。

平介なりに考えながら秋と話すのですが、成功することもあれば失敗することもある。

少しでも自分が楽になるように、幼児の相手に慣れている佐藤と佐藤の弟を召喚することもしばしば。

平介はどこまでも自分が楽になる方を探すのです。

他人を考えることがなかった平介にとっては良い機会なのかもしれないですが、同じ年と幼児とでは対応の仕方が違います。

当時読んでいた時は何も思わなかったのですが、今読み返してみるとこれは子どもと接し慣れていない大人でも苦労するだろうなと思いますね。

平介だけでなく、鈴木も秋と二人きりにされてとても疲れています。

佐藤の弟、虎太郎とは違う秋の控えめな性格もあって、変なことが言えないので余計にどうすればいいのか分からない。

でもほんのちょっと相手をしたり、話したりするだけでいいのです。

こちらからしたら、そんなこと?ということで喜んでくれるんですよね。

5巻のクリスマスの件で、平介はとうとういじけ方が最高潮に達します。

いいおにいさんではないとは自覚していますが、それでも自分なりにはやっている方だとは思っていた。

でも皆から足りないと言われてしまう。

結局は平介の関係ないところで秋の機嫌が直ってしまい、今までの悩みは何だったんだと拍子抜けしてしまいます。

最後の最後まで秋に悩まされる平介なのです。

平介と鈴木と佐藤

鈴木は乱暴で横暴ですが、3人の中では常識がありそうです。

しかし言いたいことは言ってしまう。

鈴木は中学時代のケーキ略奪事件を機に平介とつるむようになります。

平介がさぼってばかりなので良く思っていない人も多い。

だから「平介と仲良くしない方が良い」「どうして平介と仲良くしているの」

と、鈴木は誰かに言われることがある。

でも平介は悪い人ではない、ただの自由なめんどくさがりなだけ。

そして、誰が誰とつるもうが自由。

鈴木は平介とつるんでいる自分の見る目がないみたいに言われるのが気に食わない。

朱に交われば赤くなるとは言うが、平介が落ちこぼれだからといって自分が落ちこぼれるわけではないですよね。

佐藤は高校からの友人。

中学時代は自分から突っかかったことはないのですが、狂犬と呼ばれている。

人当たりがよさそうで、のらりくらりとどこでもやっていけそうな男子高校生。

入学当時に平介と鈴木の間の抜けた会話を見かけていた。

佐藤本人としては、ただ楽な方にいるだけなのです。

佐藤の過去話は全く出てこないのですが、時々力で解決する案を提案するので強いのは間違いなさそう。

鈴木も佐藤も、本当に自分に正直な人です。

6巻で平介が階段から落ちて保健室で休んでいると、二人は慌ててやって来ました。

平介のことはしっかり想っているんですよね。

平介もこの時に実感します。

いい三人組です。

目で追ってしまうのだから仕方がない長谷の恋心

長谷が平介を好きになったきっかけが全く理解できないのですが、目で追ってしまうほど平介が好きな長谷。

1巻早々に振られてしまいますが、それでも最終巻まで長谷と友人の谷村の二人は登場します。

谷村もこれほど独特な長谷と一緒にいるので、なかなかにすごい人ですよね。

この漫画は、どんな人でも仲間外れにされているわけではなくて、クラスの人達と交流があるんです。

長谷の雰囲気はどことなく孤立してしまいそうなイメージなのですが、それがこの漫画では皆がちょっと変わった人ぐらいに思って普通に接している。

この漫画で孤立等について触れても仕方がないとは思うのですが、読んでいてそんなことを思いました。

長谷の恋に対し海藤から不毛だとばっさり言われてしまいますが、これはもう理屈じゃないのです。

仕方がないです。

長谷は積極的なのか消極的なのかいまいち分かりません。

いつも遠くから眺めているだけの長谷は、何かハプニングが起こってお近づきになれないかと考えます。

でも、その気になればハプニングなんで起きなくても接点は持てる。

おはようと挨拶だけでも接点は持てるもの。

長谷はまったく気が付いていなかったのですが、谷村の言葉にはっとさせられます。

最終巻でバレンタインのチョコを渡して少し会話をすることができましたが、結局遠くから眺める長谷。

長谷が良いのならそれでいいのです。

超生真面目男子高校生、海藤の一人劇場

3巻から登場した後輩の海藤。

当の本人は無理しているわけではないのですが、本当に生きずらいぐらいに生真面目な性格。

だからこそ、不真面目で助けらればかりで誠実でない平介が気に入らなくて仕方がない。

そしてどうしてそんな平介の周りにはいい人がいて、自分の周りにはいないのか。

悔しくて、嫉妬から大人げないくらいに泣きわめきます。

彼の言葉は高校生なのかと疑うほどに重たい。

自分の言葉を正しいと思って、平介や鈴木や長谷に言ってしまう。

そして怒りスイッチの入った鈴木から、何様だと怒鳴られる。

こうあるべきだ理解できないとばかり言う海藤は、疲れないのかと逆に感心するほど毎度毎度騒がしいです。

しかし、海藤がどれだけ理解できなくても本人同士が良しとしていればいいもの。

騒がなくていいものに対して一人で騒いでいたことに気が付いた海藤。

自分の行いに反省し始めたのは良いのですが、これがまたうざいことうざいこと。

彼の生真面目さがどこかで報われるといいですよね。

だれか友人になってあげて。

平介は最後まで平介だった

少しは秋に対して気遣うことはできるようになりますが、最後の最後まで平介は平介です。

それが良いんです。

平介のゆるゆる雰囲気がとても好きなので、このままでいてほしいですね。

こういうゆるゆる人間の傍にいると、自分がイライラしていることや焦っていることが馬鹿みたいに思えてくるんですよね。

周りに一人は欲しい人間だなぁと思います。

捨てられない漫画の一つです。

 

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