感想『違国日記』ヤマシタトモコ 7巻

ヒューマンドラマ
出典:ヤマシタトモコ『違国日記 7』



※ネタバレあります。ご注意ください。

あらすじ

槙生から発せられる数々の悪口をメモしている朝は、”空虚”という単語を見て父の事を思い出す。

あの人は誰だったのか。

えみりの母もなぜ朝の母はこの人を選んだのか疑問だった。

槙生は一度も義理の兄に会ったことがない。

朝の父は”無の人”で槙生とは違ったタイプの社会と関わろうとしない人。

朝は父が誰だったのか、自分を愛してくれていたのか知りたかった。

感想

色んな人の話が載っているのであらすじがとても短くなってしまいました。

 

槙生の悪口語録、私も欲しい。

空虚、浅薄、邪悪、厚顔…。まだまだ出てくる悪口の数々。

面と向かってこんなこと言われたら、腹が立ってしまいます。

空虚=父

朝の父は無の人で社会不適合者。本当に誰だったのか。事故死していなかったら何十年も静かに気配を消して生きていたのでしょうか。

父は何を考えていたのか、もしかしたら何も考えていなかったかもしれません。

しかし、朝がお腹の中に出来た時に籍は入れたくないと拒否をしていたので意思がないわけではなさそうです。

父方のことも分かる時が来るのでしょうか。

 

笠町と朝と槙生をサポートする弁護士である塔野。

塔野は昔からのらりくらりとやり過ごすのができない人で、大学時代はガリ勉君として男社会の洗礼みたいなものとは無縁でいじめられることもなくラッキーだった。

笠町はのらりくらりとやってきましたが、ようやくそういう洗礼から降りることができた。

“男社会の洗礼”からほとんどの人は降りることができない。

男性ならこうあるべきというレーンから外れることは出来るんです。こうあるべきと言われていることが全てではないんです。

井の中の蛙大海を知らずですね。

本人がその世界で疑問も持たず生きていければ問題はないのですが、生きづらいと感じている人がいたら誰かが「こういう世界もあるよ」と手を差し伸べてくれるといいですよね。

同調圧力の強い日本ではまだまだ少ないかもしれない。

 

朝の校内でのストリートライブ。

可愛い同級生は中学時代にいじめられていたが、高校になって勝ち組グループに入ることができた。

朝の友人がその同級生を見て、目立つのだから大人しくしていればいいのにと言う。

目立つのが良いことなのか悪いことなのか分からない朝。

人前で歌うことを自分のキャラではないからと渋っている朝に、もつはどうでもいいと即座に反応。

もつはキャラを演じていたら本当の自分が分からなくなってしまった。

他人から求められるキャラばかり演じていると、自分のやりたいことができない。

演じてばかりいると、いつしか演じることしかできなくなってしまいます。

他人の為にすることを悪いことだとは思いませんが、窮屈なのは嫌です。

目立ったせいで悪口言われたらぶっ殺せと槙生が恐ろしいことを言います。

目立つことは悪いことではない。妬みから悪口を言ってしまうのでしょう。

悪口を言われる商売をしている槙生はただ小説を書いているだけでよかったのに読んでもらいたいという欲が出た。

次第に嫌われたくないと思うようになって、批判で自分が傷つかない様に心を麻痺していたら本当に心が鈍くなっていきました。

どんなものも万人受けさせることはできないし賛否両論はあるものですが、それでも気になってしまうんですよね。

それが気にならなくなる状態まで行けると生きやすいのでしょうか。

 

朝の同級生、千世。医学部を目指していた彼女は医学部の不正入試事件で心が折れました。

千世は朝の悩みに比べれば自分の悩みなんて大したことないと卑下します。

そんな彼女に朝は悩みに大小はないと答えました。

誰がどんなことで悩んでいるかなんて他人は知る由もないし、手助けできる悩みもあればどうにもならない悩みもあります。

どんなことでも本人が悩んでいるのなら悩みは悩みです。

悩みまで人と比べてしまうなんて、人は周りを気にしすぎだなぁといつも思います。

他人と比べることで良い方向に向くこともあれば逆もあるので、気にしすぎは良くない。

自分は自分、他人は他人と割り切らないといけない。

千世に元気を出してほしいから朝がストリートライブを見に来てと誘うと、彼女は校舎の窓から眺めていました。

誰のために何をしたって 人の心も行動も決して動かせるものではないと思っておくといい

ほとんどの行動は実を結ばない まして感謝も見返りもない

でも そうわかっていてなおすることが尊いんだとも思うよ

朝の歌で千世が元気になったようには見えませんでしたが、彼女の記憶には残るでしょう。

 

“なりたい自分になる”ことができる人なんてほとんどいなくて、小さいことから植え付けられた言葉に縛られている。

なりたい自分になるって、どういうことなんでしょうね。

なりたい自分というのは、本当に自分が望んでいるものなのか、はたまた親や世間から植え付けられたものなのか。

両親も友達も先輩も世間も何もかもからの影響を受けずに一人でいるのは無理な話なので、小さい頃から色んな視点の物事の見方を知っていると違ってくるような気がします。

6巻でもジュノさんが言っていましたが、人類の永遠の試練ですね。

朝がなりたい自分になるにはどうしたらいいのかと塔野に尋ねますが、塔野は何を言っているのかわからないと答えます。

塔野からしたらそうでしょうね。なりたい自分になろうと考えたことがなさそう。

塔野は自分が人と食べ物をシェアできない、融通が利かない人だと自覚している。不服に思うことはあっても周りに合わせることもなくそのまま大人になっているのですから。

朝は聞く相手を間違えました。

 

朝の周りには本当に色んな大人がいるので誰のどんな言葉や行動に影響を受けて、どんな大人になっていくのか楽しみです。

 

人は色んなことで悩んで縛られて生きているなぁと思った7巻でした。

 

 

 



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